海事代理士とは
海事代理士とは、海事代理士法に基づき、他人の委託により、国土交通省や都道府県等の行政機関に対して、船舶安全法、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律、船員法、船舶職員及び小型船舶操縦者法などの海事関係諸法令の規定に基づく申請、届出、登記その他の手続きをし、又はこれらの手続きに関する書類の作成を業とする国家資格者をいいます。
ですから海事代理士は「海の行政書士」、「海の司法書士」、「海の法律家」と呼ばれることもあります。
海事代理士になるには
海事代理士になるには、
・海事代理士試験に合格し、海事代理士として登録
または
・行政官庁において十年以上海事に関する事務に従事した者であって、その職務の経歴により海事代理士の業務を行うのに十分な知識を有していると国土交通大臣が認めた者で、海事代理士として登録
することが必要です。
海事代理士試験
受験資格
学歴、年齢、性別等による制限はありません。
ただし、試験に合格しても海事代理士法第3条に規定する欠格事由に該当する者は、海事代理士の登録ができません。
試験内容
(1)筆記試験
(2)口述試験
*口述試験は、本年の筆記試験合格者及び前年の筆記試験合格者で本年の筆記試験免除の申請をした者に対して行われます。
試験種類 | 試験日 | 試験科目 |
---|---|---|
筆記試験 | 例年 9月下旬から10月上旬 | 1.憲法 2.民法 3.商法(第3編「海商」のみ対象。) 4.国土交通省設置法 5.船舶法 6.船舶安全法 7.船舶のトン数の測度に関する法律 8.船員法 9.船員職業安定法 10.船舶職員及び小型船舶操縦者法 11.海上運送法 12.港湾運送事業法 13.内航海運業法 14.港則法 15.海上交通安全法 16.造船法 17.海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律 18.国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(国際港湾施設に係る部分を除く。) 19.領海等における外国船舶の航行に関する法律 20.船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律及びこれらの法律に基づく命令 |
口述試験 | 例年 11月下旬から12月上旬 | 1.船舶法 2.船舶安全法 3.船員法 4.船舶職員及び小型船舶操縦者法 |
受験手続
出願期間
例年8月から8月末まで
受験手数料
6,800円(受験願書に収入印紙を貼付)
受験願書の提出先
受験希望地を管轄する地方運輸局長(神戸運輸監理部長及び内閣府沖縄総合事務局を含む。)に提出
受験地
(1)筆記試験
札幌市 北海道運輸局
仙台市 東北運輸局
横浜市 関東運輸局
新潟市 北陸信越運輸局
名古屋市 中部運輸局
大阪市 近畿運輸局
神戸市 神戸運輸監理部
広島市 中国運輸局
高松市 四国運輸局
福岡市 九州運輸局
那覇市 内閣府沖縄総合事務局
(2)口述試験
東京都 国土交通省
合格率等
筆記試験
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2017年 | 290人 | 142人 | 49.0% |
2018年 | 303人 | 157人 | 51.8% |
2019年 | 288人 | 156人 | 54.2% |
2020年 | 288人 | 156人 | 54.2% |
2021年 | 302人 | 167人 | 55.3% |
2022年 | 361人 | 199人 | 55.1% |
2023年 | 409人 | 228人 | 55.7% |
2024年 | 441人 | 229人 | 51.9% |
口述試験
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2017年 | 162人 | 159人 | 98.1% |
2018年 | 162人 | 150人 | 92.6% |
2019年 | 160人 | 97人 | 60.6% |
2020年 | 199人 | 124人 | 62.3% |
2021年 | 212人 | 209人 | 98.6% |
2022年 | 197人 | 194人 | 98.5% |
2023年 | 235人 | 223人 | 94.9% |
海事代理士登録
実際に海事代理士の業務を行うには、海事代理士法第9条に基づき、登録を受けようとする事務所の所在地を所管する地方運輸局へ登録申請書等を提出し、地方運輸局長の登録を受けなければなりません。
海事代理士登録申請に必要な書類
①海事代理士登録申請書
②宣誓書
③海事代理士試験合格証書の写し
④本籍の記載のある住民票の写し
⑤30,000円分の収入印紙
⑥業務に使用する印鑑の用紙
海事代理士会
任意加入団体である海事代理士会
行政書士の場合は、行政書士会は強制加入団体ですので、行政書士登録と同時に行政書士会への入会が義務付けられています。
一方で、海事代理士会は任意加入団体ですので、海事代理士の登録をして、海事代理士会に入会しないということも可能です。登録さえすれば、海事代理士を名乗ることも可能です。しかし、海事代理士会に入会しないと、職務上請求書を手に入れることができませんし、海事代理士のバッジの貸与を受けることができません。海事代理士業を行うのであれば入会するべきでしょう。
入会金・会費
入会金 50,000円
会費 5,000円/月
支部会費 500~1,000円程度/月
海事代理士試験勉強法
海事代理士試験の勉強方法としては、
①書籍「海事代理士合格マニュアル(成山堂)」を使って勉強する
②特定非営利活動法人ReaL 海事代理士試験研究センターを利用する
③伊藤塾の海事代理士合格講座を利用する
④国土交通省のホームページから過去問をダウンロードして勉強する
の4択くらいしか無いです。
①書籍「海事代理士合格マニュアル(成山堂)」を使って勉強する
書籍の内容としては、海事代理士の資格の説明や受験についての簡単な説明、法律科目ごとの試験の傾向と対策が記載されていますが、基本的には過去問集だと思っていただいた方が良いかと思います。テキスト・教科書と思って購入すると、思っていたものと違うと感じるはずですので、可能であれば中身を見て購入されることをお勧めします。残念なことに、各科目の問題の解答が、筆記試験の章の最後にまとまって載っているので、繰り返しやる問題集としては正直使いづらい印象です。科目ごとに教科書や参考図書が推薦されていますが、全ての書籍に目を通すと膨大な時間が必要になると思われます。
また、Amazonのレビューを見ると版によっては「誤りが多い」というレビューもあり、正誤表も無いようなので、使用に関しては注意する必要もあります。
ただ、海事代理士試験のパイオニアと言ってよい存在ですし、受験会場ではこの書籍を持った受験生が多いのも事実で、代表的な教材です。
2024年8月現在の価格は4,400円です。
②特定非営利活動法人ReaL 海事代理士試験研究センターを利用する
Eプラン(海事代理士合格六法 + 海事代理士厳選過去問題集 + ちょっとした動画講義)、口述試験マスターを販売しています。
海事代理士厳選過去問題集は筆記試験の問題集なのですが、問題数が多く(過去10年分)、問題の次ページに解答が載ってますので、勉強しやすいです。
海事代理士合格六法は、その名の通り試験科目の六法なのですが、条文の横に出題年度が記載されてますので、頻出条文がすぐわかります。
口述試験マスターは口述試験の問題集です。
2024年8月現在、Eプランは税込13,200円、口述試験マスターは税込み3,630円とある程度投資は必要ですが、個人的には購入して良かったと思っています。
受講申し込み締め切り・教材の売り切れがあるので、検討されている方は早めに申し込みした方が無難です。
※合格六法は第7版、厳選過去問題集は第3版、口述マスターは第5版を使用しての感想になります。
③伊藤塾の海事代理士合格講座を利用する
私が合格した2017年(平成29年)当時には無かった講座です。
司法試験など法律系の資格試験に定評がある伊藤塾ですので、講義もしっかりしていると思われます。コースも数種類あるので、自分に合ったコースを選ぶこともできます。
④国土交通省のホームページから過去問をダウンロードして勉強する
国土交通省のホームページには過去8年分の筆記試験及び口述試験の過去問が掲載されています。ただし、解答については当時のものであり、その後の法改正には対応していないので、注意が必要です。
海事代理士試験は条文ベースの試験なので、掲載している過去問とインターネットで条文を参照すれば、お金をかけずに勉強は可能だとは思いますが、面倒だとは思います。
私の勉強方法と感想
以下、試験について個人的な感想になりますので、参考程度に思ってください。
海事代理士試験を受験した感想としては、筆記試験は条文ベースで口述試験もあるので、簡単ではないけど勉強すれば受かる、でも面倒くさい試験、という感想です。難易度的には行政書士の方が合格するのが難しいです。法律初学者は条文ベースの勉強をするのが楽しくなくて苦痛だと思いますし、船舶法や船舶安全法などはカタカナ表記の条文なので、読みづらいです。海と関係が無い生活を送っている人はイメージもしにくいと思います。行政書士と海事代理士、どちらを先に勉強するか迷っている方は、行政書士から始めるのがおすすめです。
試験科目が多いので、常に「今、どの科目(法律)を勉強しているのか」ということを意識するのが大切だと思います。今勉強している問題(条文)は、どの法律なのかということを意識してください。
満遍なくすべての科目を勉強するのが大事ですが、その中でも口述試験の対象科目である「船舶法」「船舶安全法」「船員法」「船舶職員及び小型船舶操縦者法」は、口述試験も見据えて筆記試験の段階からやや力をいれるべき科目と言えます(ただし、筆記試験合格後はこの4科目のみを勉強することになり、筆記試験後に時間はありますので、バランスは重要です)。
「憲法」「民法」に関しては、難易度が高くない「単語の記述式」と「〇×式」で、私の場合は行政書士試験の翌年に受験しましたので、海事代理士の過去問に出てきた条文を見直す程度で対応できました。
具体的な私の勉強方法としては、筆記試験については、①過去問集をやる → ②過去問で出てきた単語を六法にマークする → ③六法を眺める(暗記する) → ④たまに過去問集をやる→③と④の繰り返し、というやり方でした。この試験に限っては、過去問集をやり込むよりは、こっちの方が自分的には記憶に残る気がしたからです。
購入教材は、海事代理士合格マニュアル(成山堂)、特定非営利活動法人ReaL 海事代理士試験研究センター(以下ReaL)のEプランと口述試験マスター、成山堂書店の概説 海事法規(現在は、海事法規の解説という名称に変わったようです)です。
メインで使用した教材は、ReaLさんの過去問集と六法で、動画講義は見ませんでした。
合格マニュアルは一番最初に購入しましたが、少し使いづらかったので、ほぼ使用しませんでした。
概説 海事法規は参考にはなりますが、試験対策的には不要です。試験のテキストでは無いので、試験科目以外のことも書いていますし、法学部で使う基本書のようなものです。
口述試験は、特定非営利活動法人ReaL 海事代理士試験研究センターの口述試験マスターと六法の確認を繰り返しやりました。口述なので、実際に解答を口に出して話す練習もしました(特に私の場合は訛りにも気を付けました)。